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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)6402号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

「第二 当事者の主張

一 請求の原因

1 被告は、一般乗用旅客自動車運送事業(所謂タクシー)を業とする株式会社であり、原告は被告の従業員である。

2 原告は、昭和五四年一〇月九日、ホンダ小型自家用乗用車・練馬五七ヒ八一〇三号(以下単に「本件車両」という。)を新車で購入し、爾来本件車両を所有使用していた。

3 昭和五五年七月三〇日、東京都板橋区加賀二丁目一八番一三号所在の被告の板橋営業所構内において、当時被告の従業員で自動車修理工であつた訴外根本進(以下「根本」という。)は、その業務として被告所有の廃車したタクシーの解体作業に従事中、次のような重過失によつて右タクシーを炎上全焼させたうえ原告所有の本件車両に延焼させたため、本件車両は半焼するに至つた。

即ち根本においては、廃車タクシー解体場所の至近距離に焼却炉があり、現に廃棄物等が燃焼していたので、解体する廃車タクシーのプロパンガス導入用パイプを捻じ切る際には、引火による火災発生の危険を予見し、予めタクシーの残溜プロパンガスのタンクをはずしたり、若しくは、プロパンガスの元栓を締めたりして、引火の危険を回避すべき注意義務があったにもかかわらず、容易に果たしうる前記注意義務を怠り、いきなりプロパンガス導入用パイプを捻じ切つた重大な過失により、残溜プロパンガスに右焼却炉の火を引火させたため右タクシーを炎上全焼させたうえ本件車両についても半焼するに至らしめたのである。

4 原告が本件車両の焼失によつて被つた損害は次のとおりである。

(一) 本件車両の購入代金 一三三万六五〇〇円

仮に、右購入代金全額が認められないとしても、本件火災当時の本件車両の下取価額 八一万八〇〇〇円

(二) 本件車両に備え付けたカーコンポ代 三五万八〇〇〇円

(三) 弁護士費用 三〇万円

(四) 慰藉料 五〇万円

よつて、原告は、被告に対し、被用者の不法行為による使用者の責任に基づいて、原告が被つた損害のうち一七〇万円及び、これに対する損害発生時である昭和五五年七月三〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求の原因に対する認否<省略>

三 過失相殺の抗弁

1 被告は各従業員に対し、従業員の車両のための駐車場が充分ではないので通勤には自家用車の使用を自粛するように、また、止むを得ず車で通勤する場合には必ず会社に届け、勤務中万一の場合を考慮し、車の鍵を必ず会社に預けるように指示していた。そして届け出のあつた車両は自家用車置場に駐車(これも白線をもつて標示していた。)させたが、その車両の保管については被告は一切責任を負わない旨、通告、掲示していた。

2 それにもかかわらず、原告は本件車両を指定の駐車場に駐車せず、スクラップ置場に前部を外塀に密接するようにしてとめて置いた。しかも、本件車両は前輪駆動車のため鍵がなければその位置では移動は不可能であつた。

3 したがつて、原告においては、被告に駐車の届出をせず、鍵も預けなければ万一の場合危険を回避することができないことは予見することができたのにこれを怠つた過失があつた、というべきである。」

【判旨】

一請求の原因について

1 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

2 請求の原因2の事実のうち、本件車両を被告が所有している事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件車両の購入年月日は、昭和五四年一〇月九日と認められる。

3(一) 請求の原因3の事実のうち、昭和五五年七月三〇日、東京都板橋区加賀二丁目一八番一三号所在の被告の板橋営業所構内において本件車両が燃焼した事実は、当事者間に争いがない。

(二) <証拠>によれば、前記日時、場所で、被告会社の従業員で自動車修理工である根本が、その業務として被告所有の廃車タクシーの解体作業中、右タクシーを炎上させ、よつて原告所有の本件車両に延焼させたものであることが認められる。

(三) 次に根本の重過失の有無について判断する。<証拠>によれば、以下の事実が認定できる。即ち、根本が廃車タクシーの解体作業をしていた場所は、現に廃棄物等が燃焼している焼却炉の至近距離であつたので、廃車タクシーのプロパンガス導入用パイプを捻じ切ればガスが出てこれに引火することが予想しえた筈であり、根本においては解体するタクシーの残溜プロパンガスのタンクをはずすなり、プロパンガスの元栓を締めるなりすればガスが出ない状態でプロパンガス導入用パイプを捻じ切ることができたにも拘わらず、容易に果たすことができる右注意義務を怠つていきなり右パイプを捻じ切つたことが認められる。したがつて、根本は火災発生を予見し、これを避けるにつき重大な過失があつたものというべきである。

4 そこで、原告が本件車両の焼失によつて被つた損害について判断する。

(一) <証拠>によれば、原告は本件車両の破損により本件火災発生時における本件車両の査定価額に相当する、金六六万八〇〇〇円の損害を被つた事実が認められる。

(二) <証拠>によれば、本件車両に備え付けていたカーコンポの焼失により時価相当額として金三五万八〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。

(三) 一般に財産権侵害の場合に慰藉料請求権が認められるためには、目的物が被害者にとつて特別の主観的、精神的価値を有する場合とか、加害の態様が著しく不法であるなどの特段の事情の存することを要するものと解するのが相当であるところ、本件においては右の特段の事情について何らの立証がないので、原告の慰藉料請求は失当である。

二過失相殺の抗弁について

1 抗弁1、2の事実は当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の事情について判断する。

<証拠>によれば、自家用車使用についての被告の指示・警告は必ずしも厳格なものではなく、原告以外にも多数の従業員が被告指定の自家用車置場以外の場所に駐車していたことが認められる反面、被告の指示に従つて自家用車で通勤するについて被告の用意した駐車登録台帳に登録し鍵を預けた従業員もいたことが認められ、右の事実と当事者間に争いのない抗弁2の事実、殊に本件車両が前輪駆動であるのに鍵をかけたまま前部を外塀に密接して駐車させていたため移動させることができなかつたこと等の諸事実を総合すると、原告にも損害の発生ないしは拡大の一因があつたものというべきであり、原告の損害について概ね三割の過失相殺をするのが相当であり、前記一(一)(二)の損害一〇二万六〇〇〇円のうち被告が賠償すべき金額は七〇万円を以て相当と認める。

三弁護士費用について

以上により、原告は被告に対し七〇万円の損害賠償請求権を有するものというべきところ、被告が任意にこれを支払わないことは弁論の全趣旨により明白であり、原告本人尋問の結果によれば、原告は弁護士飯田幸光に本件訴訟の提起と追行とを委任したことが認められ、本件事案の難易、前記請求認容額その他本件にあらわれた一切の事情を勘案すると、七万円を以て被告の賠償すべき金額と認められる。

(篠田省二)

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